真っ赤な品質マニュアル

2017年11月審査の受審組織から送られてきた品質マニュアルは、表紙は、黒色で書かれていたが、本文は、すべて赤字であった。確かに「真っ赤な品質マニュアル」であった。「真っ赤な品質マニュアル」は、読みづらい面が多々あった。それにしてもこんな「真っ赤な品質マニュアル」を作成して送ってきたのだろうか。

私が所属している審査機関では、受審組織との間で、審査資料を受け取っている。審査員が直接受審組織から資料を受け取ることはない。移行審査4か月前に受け取ることになっている。しかし当組織からの資料は、遅れてきていた。たぶん組織から送られてくるのが、遅かったのであろう。

11月に審査に行ったとき、なぜ「真っ赤な品質マニュアル」にしたのか、理由を聞くことにしようと、審査計画書を作成し、受審組織に了解を取り、審査機関に提出・承認を受け、審査機関から、受審組織に送られた。審査準備で「真っ赤な品質マニュアル」をプリントアウトし、そのほかの審査資料も併せて、プリントアウトして持って行くことにした。

審査当日、管理責任者インタビューでまず「真っ赤な品質マニュアル」の理由を率直に聞いた。管理責任者から、次の話があった。ISO9001:2015では、品質マニュアルは、要求事項ではなくなったので、作成していなかった。しかし審査機関から品質マニュアルの提出を求められ、品質マニュアルを作成していないと答えた。しかし品質マニュアルを提出してくださいと、再三要求された。それで抵抗の気持ちをかねて、「真っ赤な品質マニュアル」を作成し、提出期限を遅らせて送ったという。

確かに当審査機関は、品質マニュアルを求めている。一応品質マニュアルがない組織は、審査に必要な資料を送って欲しいと言っていると聞いている。それが品質マニュアルを提出してくださいとなったのであろう。この「真っ赤な品質マニュアル」は、ISO9001:2008で多くの受審組織が品質マニュアルとして、記載した、4.1から10.3までのデッドコピーであった。注記までもコピーされていた。確かにこのような品質マニュアルが多いことは、事実だ。

ISO9001:2000が出たとき、品質マニュアルは要求事項にあったが、3項目の記述要求であった。要求事項通り3項目のみを記載した受審組織は、少なかった。ある審査機関では、3項目をA3用紙1枚に記載した品質マニュアルを推奨していた。しかしこれは、横に広がらなかった。多くの受審組織は、過去1994版と同様、規格要求事項のコピーであった。確かに94版では、規格のデッドコピーと同様なものを求めていた。それが審査をやりやすくし、同じ手順を求めるものであった。しかし00版からは、規格要求事項からの審査でなく、受審組織の風土、文化を尊重し、受審組織のプロセス、手順に従って行うようにとあった。

広く考えれば、QMS(品質マネジメントシステム)だけでなく、EMS(環境マネジメントシステム)、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)等は、マニュアルを要求していない。しかし多くの受審組織は、マニュアルを作成している。それは、規格のデッドコピーが多い。審査機関、審査員は、審査時網羅性を考えた場合、いいものだ。ある面、審査機関が受審組織のマネジメントシステムの構造を画一化させたり、文書類を規格の箇条と一致させる、規格の特定の用語を使用させる 等につながっている。これらは、各マネジメントシステム要求事項の序文に、これらを求めるものではないと書かれたものに違反している。

規格要求事項のデッドコピー等を求められた受審組織から審査機関へのクレームはない。受審組織は、審査を受け、登録し、登録証を維持するために、審査機関の言いなりになっていないだろうか。品質マニュアルの側面から見たが、本当に役に立つ審査、審査機関として適切か、を受審組織としてみていく必要があろう。受審組織は、審査の質を上げていくためにもっと強く、審査機関にもの申す、改善を働きかける必要があろう。審査機関も要求事項に忠実に、受審組織に負担をかけないようにしていくことが求められるのではないだろうか。

注:ISO17021では、審査員の知識、技能を要求している。専門性をもった審査員が受審組織に行き、審査することを求めている。従って、ISO9001の要求事項は、受審組織では、どのようになっているかの大まかなものは、知っているはずである。

なぜ日本人はリスク管理が苦手なのか

あなたはリスクという単語の語源をご存知でしょうか。
諸説ありますが、先日リスクマネジメントの分野でも有名な片方善治が、リスクの語源はラテン語の「risicare」であるといわれていました。
この単語は、「勇気をもって試みる」という意味なのだそうです。
だから、リスクという単語は、元々危険なものというような意味ではないということです。

この「勇気をもって試みる」という行動、どこかで見たり聞いたりしたことはありませんか?
実はこれ、RPGゲーム「ドラゴンクエスト(通称ドラクエ)」そのものであるということができます。
伝説の勇者が強大な悪の魔王に立ち向かうため勇気をもって行動し、仲間や情報、武器や防具を整えてこれを倒しに行くというのは、まさに大いなる「リスク」なのです。

そう考えると、日本人はリスク管理が苦手というのは、どうも違うような気がします。
300万本以上売れる一大ゲームソフトが好きな国民がリスク管理が苦手ということはちょっと考えにくいことです。
もしリスク管理が苦手なら、ドラクエをやりたいと思わないでしょう。

だから、おそらく日本人はリスク管理が苦手なのではなく、リスクの定義が苦手なのではないかと思います。
日本でリスクといえば地震や台風等の天災が主なリスクと考えられています。
これらは克服することが非常に困難で、しかも一時的なものなので、「勇気をもって試みる」という種類のものではなく、「最小限の被害でやり過ごす」のが合理的なものということになります。
それらをリスクとして認識しているので、リスク=危ない⇒適当にやり過ごそう、というロジックになるのではないでしょうか。

BCPやBCMでいいう「リスク」は組織の健全な存続を脅かすものであり、天災がすべてではありません。
その天災以外の事象に対し「勇気をもって」その克服を「試みる」ことが必要です。
もちろん天災も被害を最小限に抑えるという「risicare」は必要ですが、そこで思考が止まってしまっているのが、日本人はリスク管理が苦手と言われる一因ではないかと我々は考えています。

どうでしょう。
ここらへんで一度リスクというものをもう一度整理してみては。
ドラクエだって、最初(LV.1)から悪の魔王と乾坤一擲の大勝負などしません。
情報を集め、倒せる方法を見出し、力を蓄えてラスボスに挑みます。
BCPやBCMもそれと同じようにすれば、苦手意識も消えるのではないでしょうか。

審査の現場における問題点・課題

受審組織と認証機関とのやり取りや関係から、ベテラン審査員からの課題提供です。
まずは、以下(カテゴリーB)をお読みください。

【 カテゴリーB
7月にOA機器のレンタル会社へ審査に行った。審査に行く前に前回の指摘事項について確認していくことにしている。指摘事項は、4件あった。そのうちの2件は、本当にカテゴリーB(軽微な不適合)なのかと疑問に感じるものであった。
a)OA機器の保守・修理プロセスに関連する、次の力量が特定できませんでした。
①OA機器のクリーニング作業/作業員に必要な力量
②出荷前確認者に必要な力量/任命基準(QA機器出荷の許可者)
(指摘の規格要求事項:7.2)
b)QMSのパフォーマンスと有効性について、マネジメントレビューにおいてトップインタビューにより評価されていることを確認しましたが、評価結果が記録されていませんでした。
(指摘の規格要求事項:9.1.1)
a)、b)の是正処置は、どのようになっているだろうかと期待を持ってみた。
a)力量認定表にてOA機器のクリーニング作業員および出荷前確認者の力量を定めた。
b)マネジメントレビューからのアウトプットに評価の欄を追加し、マネジメントレビュー時に評価をし、適切な文書化した情報を保持するようにする。
そうか、審査した審査員は、a)は、クリーニング作業員及び出荷前確認者について、力量評価表に必要な力量を明確にし、資格認定することを求めたようだ。b)では、マネジメントレビューのアウトプットに評価結果の欄を、追加とあるように評価結果を明示するように要求したようだ。審査に行き、確認することにした。
管理責任者インタビューで、前回指摘事項カテゴリーBについて、確認した。するとa)及びb)について、是正処置計画書を提出したが、社内で検討した結果、資格認定表は、更新した(是正処置計画書提出のまま)が、資格認定を行っておらず、マネジメントレビューのアウトプットについても、フォーマットの変更(評価欄追加)を是正処置計画書に書いたが、実際には行っていなかった。
なぜだろうと管理責任者へ確認した。a)については、OA機器のクリーニング作業員及び出荷前確認者は、社員が行っており、OA機器がきれいになっているかであり、何かが付着していないかを見ており、出荷前確認者は、OA機器が稼動するかどうか、電源を入れて動くかどうかを見ているだけであるという。従って、クリーニング作業員及び出荷前確認者ともに入社後1ヵ月のOJTでできるようになるという。OJTの結果、不適な人は、やらせていないという。確かに聞いていると、普通の人であれば、できることではないかと感じた。またb)についてもいちいち評価して、どうとか書くよりも、問題があれば、それなりに指示があり、対処することにしているではないかとあった。
しかし、前回の審査でなぜ、カテゴリーBを受けたのであろうか。管理責任者へ、更に聞いてみた。すると規格要求事項の説明を受け、クリーニング作業員、出荷前確認者は、「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務」を行っているのではないかと迫られ、「確かにそうだ」といったという。マネジメントレビューの結果について、「品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性を評価」をした結果が良かったのか、どうかの評価結果がないことは、「評価したことにならないし、適切な文書化した情報の保持にならない」と言われたという。
審査員と受審組織との間に大きな違いがあるようだ。私が思うには、a)については、規格では、力量を求めているが、果たして力量評価表で規定し、資格認定する必要があるだろうか。ここで扱っているOA機器は、パソコンや複写機であり、一般の人は、扱ったことがあるであろうし、きれいかどうかの判断、電源が入ったかどうかはわかるであろう。従って、資格認定表に書くまでもなく、ましてや資格認定をする必要はないのではないか。審査の中で、顧客から苦情が来ているか、直接クリーニング作業員、出荷前確認者がやっている姿を見て間違いやすいかどうかを確認すべきではないか。マネジメントレビューでインプット情報について検討した結果(評価)が良かったかどうか、もし問題があれば、次に向けた課題、ペンディング事項となっているだろう。これがないということは、問題がなく、良い評価であったのではないか。「便りがないことは良い便りだ(元気なことだ)」という、ことわざもあるではないか。
前回の審査で、当該審査員から規格要求事項を突き付けられ、何も反論できなかったようだ。しかし審査後社内で検討した結果、「そこまでは、」となった時、審査機関に確認を行ったかと聞いたが行っていないという。受審組織と審査機関は、対等の立場であり、審査をよりよくするためには、審査の状況、現場の状況を率直に話していく必要があるのではないか、審査員は、受審組織の状況、顧客が求めている品質状況(顧客からのクレーム情報)を考慮した上で審査を進める、また受審組織の文化、風土を考慮していくことが必要であろう。受審組織及び審査員のこのような行為から、受審組織の品質マネジメントシステムがより堅固なものになっていくであろう。
注 ISO9001:2015 より、抜粋

7.5 文書化した情報
7.5.1 一般
組織の品質マネジメントシステムは,次の事項を含まなければならない。
a) この規格が要求する文書化した情報
b) 品質マネジメントシステムの有効性のために必要であると組織が決定した,文書化した情報

注記 品質マネジメントシステムのための文書化した情報の程度は,次のような理由によって,それぞれの組織で異なる場合がある。
組織の規模,並びに活動,プロセス,製品及びサービスの種類
- プロセス及びその相互作用の複雑さ
人々の力量
(太字は、著者による)                             】

お読みいただいたご感想はいかがでしたか?
過度な指摘事例など、その実状から次のような課題が考えられます。

① 受審組織が不当な指摘に対して反論できる力量が不足、規格に対する理解度不足。
行き過ぎた指摘に対して社として正々堂々と反論してよい。資格認定など必要ない
と考えていると。(組織の課題)
② 審査員が持論を展開し、受審組織に押し付けているように見える。(審査員の課題)
③ 審査員の力量にバラツキがあり、認証機関としてそのバラツキを
を低減させるための勉強会がどの程度実施されているか?(認証機関の課題)
というような課題が浮かびあがってきます。」

本件につき、ご意見やコメントをお持ちの方は、日本BCM協会 事務局にお聞かせください。その際、当協会ホームページの「問い合わせ」をご利用ください。

事務局  佐野 興一

他所での災害発生時への対応の教訓

皆様、こちらにお越しいただく方にはお初にお目にかかると思います。
当協会の理事をしております、浅沼です。
普段は、町田で酒販店「蔵家」を営んでおります。

少し遅くなりましたが、熊本を中心とした震災でお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げるとともに、被災されました皆様に心からお見舞い申し上げます。

私共も、東日本大震災のときには、東北ほどではなかったですが、地震によりたくさんの商品が落下し、散乱しました。
直後は、お客様の非難、商品の確保、店内の片付け等あっててんやわんやだったことが思い出されます。
そのときは皆様方から温かいご支援をいただき、今も営業を続けることができております。

そんな思いや仕入のこともあり、熊本の方にも連絡をしなければと思い、災害直後、連絡させていただきました。
どのような状況かお聞きしたところ、電話がものすごくて何もできないので、急ぎでなければあとで連絡させていただきますというような返事でした。

そうなんです。
お気遣いはうれしいのですが、被災地の方は、皆様からそうやって電話をいただくので、日常業務すらままならない、電話対応で時間をすべて使い切ってしまう状況に陥ってしまうのです。
これはいけないということで、最低限の要件を伝えて切ったのですが、このような場合、電話はNGなのでした。
これは当店でもあったことで、FAXをいただいたものの、東京都の電話帳ほども!FAXをいただき、にっちもさっちもいかなかったのです。

電話やFAXは、被災地の方には少々荷が重いようです。
災害後すぐには、電話やFAXを控えてあげていただけたらと思います。
当店でも気をつけないといけないですね。
eメールか何かで、落ち着いたら返信してもらえるように表題を工夫したいと考えております。

熊本もいよいよ復興モードですね。
復興のためには経済に働きかける、つまりあちらの製品を購入していただくのが一番の支援だと考えております。
皆様には、できるだけ熊本の製品をご購入いただき、復興を支援していただければと思います。
当店でも熊本の焼酎を色々取り揃えて皆様のご支援をお待ちしております。

最後に当店のURLを以下に記載します。
http://www.kura-ya.com/

特定非営利活動法人日本BCM協会